2026年10月3日の午後1時すぎ、東京都中央区晴海の49階建てタワーマンションで、23階の自宅から9歳の男の子が転落しました。

男の子は、その日のうちに死亡が確認されています。

警視庁は、男の子がベランダづたいに隣の部屋へ移ろうとして落ちたとみて調べているそうです。

痛ましい事故のあと、高層階で暮らす子どもは高さの感覚が大人と違うのではないか、という不安の声も上がっています。

高層階で育つ子は高さを怖がらないという、噂のように広まっている話は、本当なのでしょうか。




晴海のタワマン23階からの転落

現場は、東京湾のそばにタワーマンションがいくつも立ち並ぶ、晴海の一角です。

119番通報では、「ベランダづたいに子どもが移動した」と伝えられたといいます。

あわせて報じられているのが、通報したお母さんの「子どもが転落しそうだ」という言葉。

9歳の子がこんな形で亡くなるというのはあまりにもつらい…。

なぜ隣の部屋へ移ろうとしたのか、詳しいいきさつは警察の調べでもまだ分かっていません。

現場となったベランダの手すりがどんな形や高さだったのか、隣のベランダとの境にある仕切り板がどうなっていたのかも、報じられていないまま。

 

ちなみに、一般的なマンションでは、ベランダの境に避難用の薄い仕切り板(隔て板)があり、火事などのときにはこれを蹴破って隣へ逃げられるようになっているんです。

仕切り板をはさんで横一列に並ぶマンションのベランダ




高層階で育つ子は高さを怖がらない?

タワーマンションのような高い場所で、物心のつかない小さいころから暮らしている子は、高さへの怖さを感じにくくなることがある、という見方があり、俗に「高所平気症」と呼ばれています。

高層階の窓から見下ろす空と街並み

1980年代に、高層住宅で育つ子どもを研究していた大学医学部の研究者が論文などで使って広まった言葉で、医師が診断する正式な病名ではありません。

 

その研究者によれば、足がすくむような「怖い」という感覚は育つなかで身につくもので、身につくのが望ましいのは4歳ごろまで。

高層マンションでは階段を使わずエレベーターで一気に上がり下りするため、日常的に地面を目にする機会が少なく、高さの感覚が育ちにくい、というのが研究者の見立てです。

 

1985年には、研究機関の未来工学研究所が高層集合住宅の4階以上に住む小学生342人にアンケートを行い、実に7割以上の子どもが「ベランダや窓から下を見ても怖くない」と答えたという調査結果も残っています。




怖さの感じ方は子どもによって違う

一方で医療の側からは、病気ではないのに「症」と呼ぶのは医学的にふさわしくない、「平気なのは本人の問題」と誤解されかねない、という慎重な異論が出ているのも事実です。

高い場所に慣れて怖さを感じにくくなる子がいるという調査はあっても、高層階で育った子どもがみんな一様にそうなるわけではありません。

今回の男の子にこの話が当てはまるかどうかは、警察の発表にも報道にも出ておらず、分からないままです。

ただ、どの家の子にも言えるのは、大人が感じている高さの怖さを、子どもも同じように感じているとは限らない、という点でしょう。




高層階だと学力や流産に響くという噂

高層階での子育てをめぐっては、高さの怖さのほかにも、「学力が伸びない」「妊娠中は流産しやすい」といった話がささやかれています。

なかには、学力が伸びないという論文を見て、高層階から引っ越したという家庭もあるほど。

 

学力の話でよく引き合いに出されるのは、2018年にビジネス誌に載った、中学受験の家庭教師が、タワマンの上層階に住む子は成績が伸び悩むと経験から語った記事です。

ただ、これは指導の現場で感じたことで、学力を測って比べた研究ではありません。

研究として残っているのは、1987〜1988年に東京大学医学部の研究者が東京の高層住宅地区で幼児1,045人を調べたもので、測ったのは学力ではなく、あいさつや着替え、靴をはくといった身の回りのことをどれだけ自分でできるか、でした。

高層階の子どもはこうした自立が遅れる傾向が見られた一方、5歳ごろには大きな差がなくなっていたとされています。

同じころ東京都立大学が幼児を調べた研究でも、高層階で暮らす子どもに精神発達の遅れは見られず、育ちを左右するのは住む階より、親との関わりや遊び方のほうだと報告されているんです。

学力そのものを調べた研究では、アメリカのシカゴで1990年代に高層の公営住宅が取り壊された際、住宅を出た子どもの成績や中退率は、出なかった子どもと変わりませんでした。

今のところ、高層階に住むから学力が下がる、とまで言える研究は見当たりません。

 

妊娠の話には、1990年代に当時の厚生省の研究班がまとめた報告書があります。

東海大学医学部の研究者による報告で、集合住宅の1〜2階に住む人の流産の割合が6.8%だったのに対し、6階以上では24.2%、10階以上では38.9%という集計でした。

ただし、上の階に住む人ほど初めて出産した年齢が高い傾向も出ていて、流産は年齢とともに起きやすくなることを考えると、住む階だけの差とは言い切れません。

報告書自身も、ほかの要因の影響を認めたうえで、原因を探るのは今後の課題としています。

その後、ほかの研究で同じ結果が確かめられたものは見つからず、高層階と流産の関係は、まだ確かなことが言えない段階。

 

日本産科婦人科学会によると、妊娠の約15%は自然流産に終わり、早い時期の流産でいちばん多い原因は赤ちゃんの側の異常です。

流産した組織を調べると約8割に染色体の異常が見つかり、そのほとんどは偶然のできごとだと説明されています。

高層階で暮らしながら流産を経験した人が、住まいを選んだ自分を責める理由にはならないはずです。

妊娠中で気になることがあれば、ひとりで抱え込まず、妊婦健診のときに相談してみてください。




就学前の子が中心の転落データ

住宅の窓やベランダからの子どもの転落事故については、消費者庁や東京都も保護者へ向けてくり返し注意を呼びかけていますが、そこで語られているのは、就学前の小さい子どもの話がほとんど。

事故の原因を調べる国の消費者安全調査委員会が2025年6月に公表した報告書によると、1993年から2024年までの32年間に、6歳未満の幼い子どもが住宅の窓やベランダから落ちて亡くなった事故は134件。

では何階なら安心かというと、消費者庁の注意喚起では、低い2階からの転落であっても入院が必要になる中等症以上の重いけがが多いとされ、階数で線は引けないのが実情です。

転落事故がいちばん多いのは、3〜4歳。

 

小学生は、こうした小さい子向けの呼びかけから外れてしまう年ごろ。

 

アメリカの映画やドラマでは、「ニューヨークで子育て?」とあきれられる場面が出てくることもありますが、そのニューヨーク市には、10歳以下の子どもが住む部屋の窓に、家主が転落防止の柵を付けなければならないという決まりがあります。

ベランダに出る窓も対象で、柵で守られずに開いてしまうすき間は約11cmまで。

子どものいない家でも、孫が遊びに来るといった理由で頼めば、家主は付けなければならないそう。

 

国内では、国の報告書が挙げている事故の共通点に、子どもの年齢にかかわらず、どの家庭でもすぐに見直せるものがあります。

この134件の大半で、窓のすぐそばに足がかりになる家具があったり、ベランダにふだんから物が置かれていたりしたことが確認されているのです。

134件のうち保護者が同じ家にいたケースも半数近い65件あり、報告書は、大人が家にいても、子どもが身を乗り出したところで気づいて止めるのは難しいとしています。

だから消費者庁がくり返し呼びかけているのも、足場になる物を置かないことや、補助錠で窓が大きく開かないようにすることです。




小学生にも伝えたいベランダの約束

家庭で見直したいのは、次の4つ。

  • ベランダを子どもだけの遊び場にしない
  • 手すりの近くに、足場になる物を置かない(エアコンの室外機は手すりから60cm以上離すよう、東京都が呼びかけている)
  • 窓や網戸には、子どもの手が届かない高さに補助錠を付ける
  • 大きくなっても、ベランダの約束を言葉で確かめる

室外機を手すりから離し床に何も置いていないベランダ

補助錠は、まだあまり知られていない対策でもあります。

消費者庁の2022年の調査では、窓が大きく開かないよう補助錠を付けるという対策を知らなかった人が47.9%、実際にしていた人はわずか12.4%。

 

まだ就学前の小さい子がいる家なら、よじ登ったり、すき間からすり抜けたりしないための工夫も、言葉の約束とセットで考えておきたいところ。

手すりに張る転落防止ネットや窓に付ける突っ張り式の柵、開く幅を決められる補助錠は、家ごとのベランダの形や手すりの種類によって、取り付けの向き不向きがあります。

賃貸でも穴を開けずに付けられるものもあるので、うちの手すりや窓のサッシに合いそうなものを先に見比べておくと、失敗せずに選びやすいはず。

 

ベランダの手すりなら、結束バンドで留めていくので、穴を開けずに張れる安全ネットがあります。

 

 

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タワーマンションに多い、ガラスやパネルをはめこんだ手すりは、すき間がないので、結束バンドやベルトを通せないのが悩みどころ。

そういう手すりには、天井と床のあいだに突っ張り棒を立てて手すりの上にクランプで留め、高さ90cmのネットを上に足すタイプがあります。

ガラスパネルの手すりの上に突っ張り棒で転落防止ネットを足したベランダ

手すりの厚みが9cm以上ある場合や、最上階で天井がないベランダには付けられないので、先に測っておくと安心です。

 

 

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窓のほうは、サッシのレールに挟んでつまみを回すだけで付く補助錠が手軽です。

つまみを外して大人が持っておけば、子どもには外せないのも安心できるところ。

 

 

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換気のために少しだけ開けておきたい窓なら、開く幅を決めておける窓ロックも合います。

 

 

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ベランダの転落防止については、ほかの対策や道具の選び方も含めて、さらにくわしい情報をこちらで公開しています。

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そして、大人の言うことが分かる小学生になった子にこそ要るのが、4つ目の言葉の約束です。

ネットや柵、補助錠は、まだ分別のつかない小さい子がよじ登ったり、すき間からすり抜けて落ちたりするのを防いでくれますが、体が大きくなって手すりを自分で乗り越えられるようになると、道具の工夫だけでは防ぎきれません。

だからこそ、手すりより外には体を出さない、仕切りの向こうの隣の家へは行かないという命に関わる約束を、親子で口に出して確かめておくべきではないでしょうか。

仕切り板は火事のときの逃げ道であって、ふだん行き来する場所ではない、ということも一緒に伝えておきたいところです。

大人のなかにも、子どものころにベランダづたいに隣の部屋へ行ったことがあって、いま思い返すとぞっとする、という人もいるほど。

 

伝えるときは「危ないからダメ」のひと言で済ませず、実際に親子でベランダに立って、ここから先には体を出さない、ここから向こうは隣の家、と手すりや境目を指さして見せ、一度で終わらせずにくり返し確かめておくと、子どもにもぐっと伝わりやすくなると思います。

何階に住んでいるかにかかわらず、子どもに見えている高さを大人が知っておくことが、備えのはじまりです。

亡くなった男の子のご冥福を、心からお祈りいたします。