夏の朝、子供を送り出すときに、「水筒持った?」と声をかける。

わが家でもそうですし、たぶん多くのご家庭でこの一言が夏の合言葉のようになっているんじゃないでしょうか。

水さえ持たせておけば、とりあえず安心。

でも、水筒をちゃんと持っていた子が部活の練習中に倒れて、一生消えない障害が残ってしまった

そういう事故が、実際に起きているんです。

 

しかも、真夏のいちばん暑い日ではありませんでした。

この話を知ってから、「水筒を持たせたから大丈夫」という自分の安心が、ずいぶん頼りないものに思えてきたんですよね。

今日は、なぜ水分だけでは子供を守り切れないのか。

そして親が今日から何を持たせてやれるのかを、同じ子を持つ親として書いていきます。

部活の熱中症で子供に障害が残った実例

まず、実際に起きた出来事を知ってほしいんです。

少し重い話になりますが、ここを飛ばすと「うちは大丈夫」で終わってしまう気がするので、少しだけお付き合いください。

テスト明けの練習で倒れた高校2年生

2007年、兵庫県のある県立高校の女子テニス部で起きた事故です。

倒れたのは、当時高校2年生でチームのキャプテンを務めていた女子生徒でした。

 

その日は、中間試験の最終日にあたっていました。

練習は11日ぶりで、体がまだ暑さに慣れていない状態だったとされています。

暑さに体を慣らしていくには、少しずつ運動量を戻していく時間が必要だと言われますが、テスト明けのこの日は、その準備がないまま本格的な練習に入ってしまう形になりました。

 

しかも、いつもは夕方にやっていた練習を、この日は昼間におこなっていました。

コートの照り返しもあって、地面の近くの体感温度は、発表されている気温よりもさらに高かったはずです。

顧問の先生は出張のため、最初の30分ほど立ち会っただけで現場を離れます。

キャプテンだった彼女に、いつもより長い3時間のメニューを指示して。

練習の途中、彼女はふらついて座り込んだそうです。

まわりの部員が休憩を勧めても、1〜2分だけ休んでまたコートに戻りました。

 

キャプテンが率先してメニューをこなす。

真面目な子ほど、そうなりますよね。

そして最後のランニング中に倒れ、救急車で運ばれました。

このとき、最高気温は27℃前後だったと伝えられています。

真夏の猛暑日ではないんです。

初夏の、ちょっと気温が高い日。

それでも、こういうことは起きてしまうんですね。

 

残ったのは「一生続く障害」だった

搬送された彼女は、一時、心肺停止の状態になりました。

熱中症による低酸素脳症と診断され、脳が萎縮してしまいます。

目が見えない。

話すことができない。

手足も動かせない。

一命は取り留めたものの、寝たきりで24時間の介護が必要な状態になってしまったと報じられました。

 

事故から十年以上が経った今も、ご家族の介護は続いているといいます。

ほんの数時間の練習が、その後の人生をまるごと変えてしまった。

そう考えると胸が苦しくなります。

ご家族はその後、学校側の責任を問う裁判を起こしました。

最初の判決では訴えが退けられたものの、大阪高裁は判断をひっくり返します。

顧問が不在で部員の体調変化を直接見られない以上、いつもより軽い練習にとどめるべきだった。

水分補給の時間を設けるべきだったのに、それをしなかった。

そうした学校側の過失を認め、2015年に兵庫県へおよそ2億3千万円の賠償を命じました。

最高裁もこれを支持し、判決は確定しています。

 

ここで私が重く受け止めたのは、賠償額そのものではありません。

「本人の気合が足りなかった」とか「自分で休めばよかった」という話ではないと、司法がはっきり認めたことです。

倒れたのは、彼女のせいではなかった。

そこを、親としてかみしめたいのです。

同じような事故は繰り返されている

「それは特別な不運だったんでしょう」

そう思いたくなる気持ちも、正直わかります。

でも、部活動中の熱中症事故は、この一件だけではありません

 

国の調査でも、学校の管理下で起きる熱中症は毎年のように報告されています。

近いところでは、宮城県の高校で野球部の練習中に倒れた元部員が、後遺症が残ったとして学校の運営法人を訴えた例もありました。

つまり、これは「たまたま運が悪かった一人の話」ではないんですよね。

暑い中で長時間、体を動かし続ける。

喉が渇いても言い出しにくい。

指導者がその場を離れる瞬間もある。

こうした条件が重なりやすいという構造がある限り、これはどこの部活でも起こりうることなんですよね。

 

そして、いくら学校側に注意を求めても、目の届かない瞬間は必ず生まれてしまいます。

だからこそ、親の側で先に手を打っておくことに、大きな意味があるんです。

水筒だけでは熱中症から守れない理由

ここで冒頭の「水筒を持たせたのに」に戻ります。

なぜ、水を持たせていても防ぎきれないのか。

理由は、大きく3つあると私は考えています。

 

一つ目は、飲むタイミングがないこと。

練習の流れの中では、自分だけ「水を飲んでいいですか」とはなかなか言い出せません。

さっきのキャプテンの子も、休憩を勧められてすぐ戻ってしまいました。

真面目な子、遠慮する子ほど、水筒を持っていても口をつけないまま我慢してしまうんです。

 

二つ目は、喉が渇いたと感じた時点で、もう遅いということ。

体はそのずっと手前から水分を失っていて、喉の渇きを感じたときには、もう対応が後手に回っているんですね。

 

三つ目、これがいちばん見落とされがちなのですが、水分は「体の内側」を助けるだけ、という点です。

炎天下のグラウンド、照り返すアスファルト、動きを妨げる防具。

こうした環境でぐんぐん上がっていく体の芯の温度は、水を飲むだけでは下げきれません。

内側から支える水分と、外側から冷やす手段。

この両輪がそろって、はじめて子供の体を守れるわけです。

 

実際、救急の現場からもこんな声が上がっています。

どれだけ水を飲んでいても、暑い場所に居続けるかぎり、体の中には熱がこもり続けてしまう。

だからこそ、合言葉は「水分プラス、体を冷やす」なんですよね。

 

熱中症は、その場をしのげば終わりというものでもありません。

後遺症がどれほど怖いかについては、こちらの記事でも詳しくまとめています。

熱中症になりそうなくらいの酷暑の公園
水分補給では防げない?後遺症を残さないための熱中症対策ある夏の日の話、外から帰ってきて玄関で靴も脱がずにしゃがみ込んでしまうことがありました。 水分補給はしていたのに、身体がいうことをきか...

水分の話だけで安心していた方は、あわせて目を通してみてください。

部活の子に持たせたい熱中症対策グッズ6選

ここからは、実際にカバンへ入れておける具体的な道具の話です。

どれも数千円ほどで、特別なものではありません。

わが家でも、夏のあいだはこうした道具をカバンへ入れっぱなしにしているんですよね。

でも「持たせているかどうか」で、いざというときの差はぜんぜん違ってきます。

 

濡らして使う冷却タオル

まず一枚持たせたいのが、水に濡らして絞ると冷たくなるタオルです。

電源も保冷剤もいらず、水道さえあれば何度でも冷たさが復活します。

太い血管が通っている首の後ろを冷やすだけで、体感がずいぶん楽になるんですよね。

練習の合間に、汗をふくついでに首へさっと当てられる手軽さもうれしいところ。

かさばらず、洗って繰り返し使えるので、部活の子にはいちばん現実的な一枚だと思います。

 

 

首もとを冷やすネッククーラー

移動中や待ち時間に効くのが、首もとを直接ひんやりさせるネッククーラーです。

最近は、肌に当たる冷却プレートでスッと冷やしながら、羽根のないファンで風も送れるタイプが人気なんですよね。

スイッチを入れれば1秒ほどでひんやりして、炎天下の行き帰りや試合の出番待ちにしっかり効きます。

音が静かなので、待ち時間に周りを気にせず使えるのもいいところ。

充電して繰り返し使えるので、毎日の部活にも気兼ねなく持たせられます。

 

 

塩分タブレット

意外と忘れがちなのが、塩分の補給です。

汗をたくさんかくと、水分と一緒に塩分も体の外へ出ていってしまいます。

そこへ水だけをがぶ飲みすると、体内の塩分がさらに薄まって、かえって具合が悪くなることもあるんですね。

ポケットにいくつか入れておいて、練習の合間になめるだけ。

「水と塩はセット」と覚えておくと、まず間違いないと思います。

 

 

経口補水液

「ちょっと様子がおかしいな」というときのために、カバンに1本しのばせておきたいのが経口補水液なんですよね。

普通のスポーツドリンクより、水分と塩分が体に染み込みやすい配合になっているのが特長です。

具合が悪くなってからでは、自販機を探す余裕もありません。

備えとして1本。

これがあるだけで、初期対応のスピードが変わってきます。

 

 

登下校の日差しよけに携帯用日傘

部活は、練習中だけが暑いわけではありません。

炎天下の登下校や、屋外での試合の待ち時間も、じわじわと体力を奪っていきます。

そこで一本持たせたいのが携帯日傘です。

日傘は、体に入ってくる日差しそのものを遮ってくれるので、暑さ対策としては効果が大きいんですよね。

完全遮光タイプなら、傘の下の体感温度がぐっと下がります

最近は男の子でもさす子が増えていて、恥ずかしがらずに使える空気になってきました。

軽くて折りたためるものを選べば、使わないときはカバンにしまっておけます。

 

 

首を冷やす氷のう

そして最後に持たせたいのが、持ち運べる氷のうです。

ふだんは首すじに当てて体を冷やすのに使え、いざというときには応急処置にもなる、一本で二役をこなしてくれる道具なんですよね。

もし友達が「気分が悪い」と座り込んだとき、首やわきの下、脚のつけ根を冷やすと応急処置になります。

太い血管が通っている場所を冷やすと、体全体の熱を早く下げられるからです。

意識がもうろうとしている子に無理やり水を飲ませるのは危険なので、まずは冷やして救急車を待つ、という判断も知っておいてほしいところ。

巻いて固定できるタイプなら、倒れかけた子に当てたまま手が離せます。

お守りとして一つ、部活バッグに。

 

おわりに

昔と今では、夏の暑さがまるで違います。

「自分たちの頃は水を飲まずに走ったもんだ」という感覚は、もう通用しません。

そして子供は、まわりに気をつかって、しんどくても「もう無理」となかなか言えない生き物です。

 

とくにチームのために頑張る真面目な子ほど、自分の限界を後回しにしてしまいます。

だからこそ、本人の頑張りに任せるのではなく、道具と約束で守ってやりたいんですよね。

「タオルで首を冷やしていいんだよ」

「おかしいと思ったらすぐ先生に言うんだよ」

そのひと声と、カバンの中の数千円の備えが、取り返しのつかない後悔を防いでくれるかもしれません。

わが子が今日も、いつもと同じ顔で笑って帰ってくる。

その当たり前をこの夏も守るために、できることから始めてみませんか。

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