8月8日のお昼過ぎ、愛知県の山あいを流れる川で、悲しい事故が起きました。

家族3人での川遊び中、溺れかけた小学6年生の息子さんを助けようと水に入ったお父さんが、自分も溺れて帰らぬ人になったんです。

息子さんは、無事でした。

私も子を持つ親のひとりとして、もし目の前でわが子が沈みかけたら、たぶん考えるより先に体が水へ向かうだろうと考えてしまいました。

自分の命にかえてでも子どもを守れたなら本望だと思ってしまうのが親というものだからです。

今回は、こんな悲しい事故が二度と起きないように、このニュースについて触れていこうと思います。

鴨山川で起きた水難事故

8月8日の正午過ぎ、愛知県東栄町を流れる鴨山川で、「男性が川で溺れている」と通りかかった人から119番通報がありました。

東栄町は、奥三河と呼ばれる山あいの自然豊かな町。

溺れたのは、家族3人で川遊びに来ていた40歳のお父さんで、一緒にいたのは奥さんと小学6年生の息子さんでした。

お盆休みが始まったばかりの土曜日に、家族そろって川へ出かける。

どこの家庭にもある、ごく普通の夏の一日だったはずです。

 

警察によると、先に溺れたのは息子さんのほうだったようです。

それに気づいたお父さんが助けようと水へ入り、そのまま自分も溺れてしまったといいます。

息子さんはお母さんに助けられて、命に別条はありませんでした。

いっぽうのお父さんは、近くの住民に引き上げられたものの心肺停止の状態で病院へ運ばれ、およそ8時間後に亡くなっています。

 

現在報道されている事故の経緯はこのような感じですが、これは夏の川遊びでは誰にでも起こりうるリスクだと知っておく必要があります。

きっと、朝から車で川へ向かう道中があって、お昼ごはんの相談があって、水に入るまでの笑い声があったはずだからです。

手前=小石が透ける浅瀬/中央〜奥=濃い青緑に変わる深み/左手前の岩と夏草/木漏れ日/奥の日陰の谷

現場の川は、深いところで2メートルほどあったそうです。

身長170センチの大人がまっすぐ立っても、頭のてっぺんまで水に沈んでしまう深さですね。

そして3人とも、ライフジャケットは着けていなかったと報じられています。

子どもが助かって、助けに入った親のほうが亡くなる。

毎年こういうニュースを見るたびに、同じ親としてどうにもやりきれない気持ちになります。

親の気持ちを考えると…

平たい大きな岩/大人用の黒いスポーツサンダル/子ども用の小さな紺のサンダル(並置)/穏やかな川面/対岸の岩と草木

子供が危機に陥った状況において、親はどんな行動をとるか。

たぶん、何かを考える時間なんてなく、沈みかけたわが子が見えて、次の瞬間にはもう体が動いていたのかもしれません。

そして、水の事故の残酷なのは、

溺れかけた人はパニックになり、近づいてきた人に全力でしがみつく

というところです。

相手がわが子であっても、それは変わりません。

正面から抱きつかれて頭を押さえつけられると、大人でも自分の顔を水面の上に出しておけなくなります。

水を吸った服は驚くほど重くなりますし、川の水には、海のように体を押し上げてくれる塩の浮力もありません。

 

プールで泳げることと、川で泳げることも別ものです。

川には流れがあって、底は一歩先で急に深くなり、真夏でも山の水はひんやり冷たい。

学校のプールで25メートル泳げる子でも、服のまま流れの中で同じように動けるわけではないんですよね。

まして、足のつかない深さで11歳の子を抱えたまま浮き続ける。

それがどれほど難しいことだったか、想像するだけで息が詰まります。

 

それでも私は、お父さんの行動を「間違いだった」とは言えません。

わが子が沈んでいく姿を、岸からただ見ていられる親なんていないからです。

同じ場面に立ったら、私もきっと水へ入ります。

 

あわせて、ぜひ知っておいてほしいことも。

溺れている子どもは、私たちが思っているよりずっと静かだということ。

大声で叫んだり、水しぶきを上げて暴れたりするとは限りません

呼吸をするだけで精いっぱいで、声を出す余裕がないからです。

すぐ近くで見ていた家族が気づいたときには、もう水面から顔が消えていた、ということが実際に起こります。

 

だからこの事故に、責められる人は誰もいません。

お父さんも、お母さんも、息子さんも、何ひとつ間違っていないと思います。

誰も間違っていないのに、家族のひとりが帰ってこなかった

そこが、水の事故のいちばん怖いところなのです。

 

水の事故に気をつけて、という呼びかけは、毎年夏のたびに流れていますよね。

それでも事故がなくならないのは、危ないと知っていることと、わが家に起こると思えることが、まったく別ものだからです。

楽しみにして出かける家族ほど、危険の話は遠くに聞こえます。

だけど、水のリスクはちょっとしたことで突然やってきます。

残された家族のこれから

息子さんは、命に別条がないとのことでした。

しかし、11歳という年齢を考えると、自分が溺れたこと、お父さんが助けに来てくれたこと、そしてお父さんだけが帰ってこなかったこと。

その全てを、これから抱えて大きくなっていきます。

ネットには、お父さんへの哀悼と並んで、息子さんの心を気づかう声がいくつも上がっていました。

「自分のせいで」と思ってしまわないだろうか、と。

会ったこともない11歳の心を、大勢の大人が本気で心配している。

それくらい、この事故は他人事に思えないものです。

 

そして、お母さんも同じです。

夫と息子が同時に溺れるなかで、わが子を岸へ引き上げました。

その数分間がどんなものだったか。

想像するだけで胸が苦しくなりました。

 

この家族にとって夏は、本来なら楽しい思い出を増やしていく季節だったはずです。

これから先、川の音を聞くたびに、お盆が近づくたびに、あの日のことがよみがえるのかもしれません。

それでもいつか、助かった息子さんが自分を責めずに笑って大きくなっていくこと。

「自分のせいで」なんて、どうか思わないでほしい。

私も同じ父親として、亡くなったお父さんがいちばん望むことはそこなのかもしれません。

川へ行く前に話しておきたいこと

しかし、周りがどれだけ言葉を尽くしても、この悲しみを軽くできるとは限りません。

同じ悲しみを繰り返さないために親ができることは、じつはそんなに多くありません。

水色に白い花模様の浮き輪/水入りの透明なペットボトル(ラベルなし)/紺に白蓋のクーラーボックス/草地/奥の穏やかな川

まず、川に着いたら、遊ぶ前にその川の深さと流れをチェックしておくこと

水面が穏やかに見えても、一歩先で急に深くなっている場所はどこの川にもあります。

「ここから先へは行かない」という線を、水に入る前に家族で決めておいてください。

流されたサンダルやおもちゃは追いかけない、という約束もセットで。

いざという場面で子どもがとっさに思い出せるのは、ふだんの会話で聞いた言葉だけですから。

その線引きは、大人が思うより少し手前に引いておいて、ちょうどいいくらいだと思います。

 

それから、誰かが溺れているのを見つけたときの動き方です。

自分は水に入らず、大声で人を呼びながら119番へ通報して、浮き輪やクーラーボックスなど浮くものを投げ渡す

ペットボトルなら、中身を少しだけ残しておくと重みが出て、狙ったところへ投げやすくなりますよ。

溺れている人は、浮くものを胸に抱えるだけで顔を水の上に出せるようになります

水の事故で生死を分けるのは泳ぐ力ではなく、助けが来るまで呼吸を続けられるかどうかだからです。

そして救助が来るまで、溺れている人から絶対に目を離さないこと。

川の流れは人を思ったより遠くまで運ぶので、一度見失うと、今度はどこを探せばいいのか分からなくなってしまいます。

 

今回の事故でも、通報したのは通りかかった人で、お父さんを引き上げたのも近くに住む人でした。

人を呼ぶ声は、それだけで誰かの命をつなぎます。

子どもに話すときは、怖がらせる必要はありません。

「もし友だちが川に流されたら、どうする?」と、クイズみたいに聞いてみるだけでもいいんです。

一度でも自分の口で答えたことは、いざというとき体が思い出してくれますから。

 

消防や水難学会が毎年伝えているのも、まったく同じ順番です。

「助ける人が生きていること」まで含めて水難対策。

この一文を、私はこれからも忘れない気がします。

 

そしてもうひとつが、浮くための備えです。

子どもが最初から浮いてさえいれば、誰かが飛び込む場面はそもそも生まれません

子ども用のライフジャケットは、数千円から手に入ります。

サイズの選び方は、以前こちらの記事に書きました。

ライフジャケットを来て川遊びする家族
後悔しない子供のライフジャケット選び|川も海も安心を携えて遊ぼう!毎年、夏が来るたびに、必ずと言っていいほど流れてくるニュースがあります。 それは、子供が川や海で命を落とす事故。 正直に言うと、私は...

 

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大人用も、同じように選べます。

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ここ数年、川でライフジャケットを着た子どもをよく見かけるようになりました。

ああいう景色が、これからの夏の当たり前になってほしいと思っています。

麦わら帽子(黒リボン・つば広)/青と白のストライプのレジャーシート(巻いた状態)/白い丸うちわ(木の柄・シートに立てかけ)/河原の丸い石/浅い清流/両岸の木立/奥の緑の山/青空と白い雲

大阪に住んでいると、お盆はどこそこの川へ行く、という話をよく聞きます。

今年その予定がある方は、出かける前の5分だけ家族で今日の話をしてみてください。

自分の命にかえても、子どもを守りたい。

その気持ちは、きっとどの親も同じように持っています。

でもいちばん幸せなのは、その気持ちの出番が来ないまま、家族そろって日焼けした顔で家に帰ることですよね。

この夏、川へ出かけるすべての家族が、そろって家に帰ってこられますように。

亡くなられたお父さんのご冥福を心からお祈りいたします。