ある夏の日の話、外から帰ってきて玄関で靴も脱がずにしゃがみ込んでしまうことがありました。

水分補給はしていたのに、身体がいうことをきかない。

正直に言うと、熱中症というのはちゃんと水分補給をしていれば大丈夫だと思い込んでいたんです。

その思い込みが、いちばん危ないところでした。

2026年7月21日、岐阜県の多治見市で40.3度、郡上市で40.0度を観測。

気象庁がこの春に新しく決めた「酷暑日」、つまり最高気温40度以上の日が、全国で今年初めて記録された日とのこと。

そんな日に、水筒を持たせただけで子どもを送り出す夏休みの始まり。

水分さえとっていれば大丈夫、という前提が、たぶん多くの人が思っているより危ういのです。

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人生に残る熱中症の後遺症

「熱中症は重度になると治らない、ゆで卵をいくら冷やしても生卵には戻らない」

これは、ひろゆきさんが夏になるたびにSNSで投稿している、有名なたとえ話。

重い熱中症では脳にダメージが残り、記憶力や集中力の低下、睡眠障害といった症状が長く続くことがあります

ずいぶん強い言い方だなと感じる方もいるかもしれません。

ただ、この比喩は大げさではないんですよね。

 

JAFが行った真夏の車内の実験をご存じでしょうか。

炎天下に停めた黒い車は、30分で車内が約45度に達しました。

そして、ダッシュボードの上は最高で79度

実験では、そこに割って置いた生卵が全体が白く固まったと報告されています。

たとえ話のつもりで聞いていた「ゆで卵」が、日本の夏の車の中では実際に起きているわけです。

人の体も、同じ物理法則の中にあります。

 

2007年5月、兵庫県立龍野高校のテニス部で、当時高校2年生だった女子生徒が練習中に倒れました。

低酸素脳症で、目が見えなくなり、話すことも手足を動かすこともできなくなっています

裁判では学校側の過失が認められ、大阪高裁が兵庫県に2億3千万円の支払いを命じ、2015年12月に最高裁で確定しました。

顧問が出張で練習にほとんど立ち会えなかったにもかかわらず、通常より長時間で密度の高い練習を指示していたことが問題とされています。

賠償額の大きさが、失われたものの大きさをそのまま表しているように思えてなりません。

裁判になるような特別な事故だけの話ではない、ということなんです。

通勤という、毎日の当たり前の中でも起きている。

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今年の事例も出ています。

栃木県は7月20日、栃木市で87歳の男性が熱中症の疑いで亡くなったと発表しました。

発見されたときの体温は、42.6度だったといいます。

お風呂のお湯よりも熱い温度が、人間の体の内側で起きていた。

体温計の目盛りが42度で終わっているのは、そういうことなんですよね。

この数字を見てしまうと、熱中症を軽くみていたことに胸のあたりがすっと冷たくなります。

一番大事なのは暑さを避けること

救急の現場で、熱中症で運ばれてきた患者さんがいちばんよく口にする言葉があるそうです。

「気をつけてたのに…」

水も飲んでいた、塩分もとっていた、それなのに倒れた。

この「それなのに」こそが、熱中症のいちばん誤解されている部分なんです。

 

熱中症の正体は、体温調節そのものの破綻

人の体は動いていなくても常に熱を作り続けていて、その熱をおもに汗の蒸発で外へ逃がしています。

ところが気温が高く、湿度が高く、日差しが強い場所では、この仕組みが二重に崩れてしまうんですよね。

 

ひとつは、周りの空気やアスファルトから熱がどんどん入ってくること。

もうひとつは、湿度が高いと汗が蒸発できず、冷却装置を持っていないのと同じ状態になってしまうこと。

 

では、身体の中の水と塩分は何をしてくれているのでしょうか。

汗で失われた水分と電解質を補って、血液の量を保ち、汗をかける状態を維持してくれています。

これはとても大事な役割です。

ただし、入ってくる熱を1度も減らしてはくれません

だから、真面目に水分をとっている人が、水を飲みながら倒れるのです。

環境省の熱中症予防情報サイトには、対策の順番がはっきり書かれています。

まずは屋内でエアコン等を適切に使用し、涼しい環境で過ごすこと

その上で、こまめな休憩や水分補給・塩分補給をすること

水分補給が二番目に書かれているのは、決して軽く見られているからではありません。

暑い場所から離れることが先で、補給はその次、という順番にちゃんと意味があるということなんですよね。

 

そしてもうひとつ、天気予報の気温だけを見て判断するのも危険です。

環境省が毎日公表している暑さ指数(WBGT)は、気温に加えて湿度と日射を考慮した指標で、熱中症のリスクをより正確に表します。

目安はおおよそ次のとおり。

25〜28で警戒

28〜31で厳重警戒

31以上は危険

31を超えた日は、部活も、庭の草むしりも、昼間の買い物も、原則やめていい日だと考えたほうが安全です。

気温が35度でも、湿度が高ければ体感としての危険度はもっと上がります。

 

「そうは言っても、うちは家にいるから」と思われたかもしれません。

ところが、総務省消防庁の速報値がその安心をきれいに崩してくれます。

7月6日から12日までの1週間で、熱中症による救急搬送は全国で4,580人

前の週から3,210人も増えていて、5県で7人が亡くなっています。

 

そして、注目したいのが内訳です。

65歳以上が2,827人で全体の61.7%を占め、発生場所は「住居」が最も多いという結果でした。

外で倒れる人より、家の中で倒れる人のほうが多いということ。

家の中が危ないのには、はっきりした理由があります。

エアコンで冷えているのは、たいていリビングと寝室だけではないでしょうか。

廊下、トイレ、脱衣所、日中に火を使った台所

このあたりは、外気とほとんど変わらない温度になっていることがあります。

涼しい部屋を一歩出た瞬間から、そこはもう屋外と同じ、というわけです。

入浴前後や夜中のトイレで倒れるケースが多いのは、まさにここなんですよね。

 

ここまでをまとめると、答えは実にシンプルになります。

熱中症を防ぐために一番効くのは、暑いところに長時間いないこと

飲み物でも、根性でも、慣れでもありません。

 

とはいえ、です。

ここで話を終わらせると、ただのきれいごとになってしまいます。

通勤も、部活の試合も、現場の仕事も、保育園の送り迎えも、スーパーの買い出しも、暑いからといって消えてはくれません。

避けられるものは避ける。

そのうえで、どうしても避けられない時間をどう乗り切るか。

ここから先が、道具の出番です。

暑さを避けるための冷却グッズ

冷却グッズを買いに、炎天下の中を何軒もお店を回る。

これほど本末転倒なこともありません。

炎天下の駐車場から店までの往復だけで、もう十分こたえますから。

ネット通販なら、かさばる保冷剤も、重たい飲料のケースも玄関先まで届けてくれます。

店頭の棚を買い占めずに済むので、あとから買いに来た人の分を奪わないという点も、地味ですが悪くないところ。

そして注文したその日から、次の猛暑日に間に合う可能性があるというのが、いちばん現実的な理由かもしれません。

 

ただ、道具を並べる前に、ひとつだけ正直に書いておきたいことがあります。

冷却グッズは万能ではありません。

とくに送風だけの道具は、汗の蒸発を助けることで涼しく感じさせる仕組みなので、気温が体温を超えるような日には熱風を当てているだけになることがあります。

湿度が高くて汗が乾かない日も同じで、効き目はぐっと落ちてしまうんです。

 

ペルチェ素子で冷やすタイプは、直接肌に長時間当て続けると低温やけどの心配もあるんですよね。

あくまで涼しい場所へ移動するまでの時間を稼ぐ道具、と考えておくのがちょうどいい距離感だと思います。

この指摘はまったくそのとおりで、冷たく感じることと、体温が下がることは別の話です。

選ぶときの基準は「気持ちよさそうか」ではなく、太い血管が通っている場所を実際に冷やせるか

その目で見ていくと、選ぶものはかなり絞られてきます。

 

ペルチェ式ネッククーラー

首の太い血管を、金属プレートで直接冷やすタイプです。

保冷剤タイプと違って冷凍庫で凍らせる手間がなく、充電さえしておけば朝から使えます。

体感マイナス10度前後をうたうモデルが増えていて、屋外の作業やイベントの待機列では頼りになる存在。

選ぶときは、冷却プレートの面積と、連続使用できる時間を見てください。

肌が弱い方は、薄いタオルを一枚はさむだけでも低温やけどの不安はかなり減らせます。

 

ハンディファン

もはや夏の必需品ですが、使いどころを間違えている人がとても多い道具でもあるんですよね。

汗をかいている状態で風を当てると気化熱で体温が下がるので、効くのは汗が出ているうち

逆に、汗が止まっているのに顔に熱風を当て続けるのは、危険を見逃す方向に働きます。

首かけタイプなら両手が空くので、子どもの手をつないだままでも使えるのがありがたいところ。

霧吹きで肌を湿らせてから風を当てると、効き方がぜんぜん違いますよ。

 

濡らして使う冷却タオル

水に浸して絞って振るだけで冷たくなる、あのタオルです。

電池も充電もいらないので、水道さえあれば何度でも復活してくれます。

価格も手ごろで、部活の子どもに持たせるならこれがいちばん現実的な一枚

首に巻くだけでなく、駅のトイレで水を含ませて脇の下を数十秒押さえるという使い方を覚えておくと、体調が怪しくなった時の応急処置になります。

洗って繰り返し使えますし、家族の人数分そろえても数千円といったところ

 

保冷剤入り冷却ベスト

背中や脇腹に保冷剤を入れて、上半身をまるごと冷やすベストです。

もともとは建設や物流の現場で広まったものですが、最近は野外イベントやスポーツ観戦にも使われています。

作業着の下に着られる薄手のタイプや、水を含ませるだけの気化冷却タイプもあり、選択肢はかなり増えました。

朝の炎天下に長時間立つ仕事の方や、夏場の現場を持つご家族には、これが一枚あるかないかで午後の消耗が変わってきます。

保冷剤の替えが何個付いてくるかも、地味ですが確認しておきたいところ。

 

遮光日傘とUV帽子

いちばん地味で、いちばん確実に効くのがこれ。

日射を遮るというのは、入ってくる熱そのものを減らす数少ない手段です。

完全遮光の日傘を差すだけで、体感温度が数度下がるという実験結果も報告されています。

男性が日傘を差すのはまだ照れくさいという声も聞きますが、倒れて救急車を呼ぶことに比べれば安いものです。

子どもには、つばの広い帽子と、首の後ろを覆えるタイプを選んであげたいところ。

 

 

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体の内側と住まいを守る備え

外から冷やす道具をそろえたら、次は体の内側と、家そのものへ。

ここで一つ、意外と知られていない話を。

厚生労働省は、汗をかく作業をするときの補給として水100mlあたりナトリウム40〜80mgを目安に挙げています。

いわゆるスポーツドリンクがこのあたりの濃度で、経口補水液はさらに塩分が高く設計されているんですよね。

つまり両者は上位互換ではなく、役割が違うということ。

日常の予防はスポーツドリンクや塩分タブレット、すでに具合が怪しい時は経口補水液、と使い分けるのが正解に近いのです。

 

経口補水液

脱水が起きてしまったときに、水分と塩分を素早く体へ入れるための飲み物。

「おいしく感じるときは脱水している」とよく言われますが、実際そのとおりで、体調のバロメーターにもなります。

常温で保存できるので、玄関やクルマに1本ずつ置いておくと安心感がぜんぜん違うんですよね。

ただし塩分が高いため、健康なときにがぶ飲みする飲み物ではありません。

血圧や腎臓で治療を受けている方は、かかりつけの先生に一度確認しておくと安全です。

 

塩分タブレット

ポケットに入れておけるという、たったそれだけの理由でとても優秀な備え。

飲み物と違って重くならず、部活バッグにも通勤カバンにも放り込んでおけます。

子どもに持たせるなら、味が好みかどうかで選んであげてください。

嫌いな味だと、いざという時にちゃんと食べないんですよね、これが。

職場のデスクに一袋置いておくと、まわりの人にも配れて地味に感謝されます。

 

首を冷やす氷のう

冷やすべきは、首、脇の下、脚のつけ根

太い血管が皮膚の近くを通っているこの3か所を冷やすのが、体温を下げるいちばんの近道です。

スポーツ用の氷のうは口が広くて氷を入れやすく、患部にぴたりと沿ってくれます。

倒れた人を待つあいだの応急処置にも使えるので、家に一つあると立場が変わる道具なんですよね。

冷凍庫に保冷剤を数個ストックしておくだけでも、初動はずいぶん変わってきます。

 

衣類用冷感スプレー

服の上からひと吹きすると、気化熱でひんやりするタイプのスプレーです。

効果が続く時間は短いので、これ一本で夏を越そうとするものではありません。

それでも、駅から会社までの数分、部活前のアップの前など、ここぞという数分には確実に効いてくれます。

直接肌にかけるタイプと衣類用は別物なので、買うときにラベルを見てください。

携帯用の小さいサイズなら、子どもの水筒ポケットにも収まりますよ。

 

暑さ指数つき温湿度計

そして、私が今年いちばん買ってよかったと思っているのがこれです。

暑さ指数を表示してくれるタイプの温湿度計を、リビングと子ども部屋に置きました。

数字が危険域に入るとアラームが鳴るので、「まだ大丈夫」という自分の感覚を疑えるようになります。

人間の暑さの感覚は、疲れているときほど鈍くなりますし、高齢になるとさらに鈍っていくもの。

千円台から買えて、電池を替えれば何年も使えるものが、家族の判断を肩代わりしてくれるわけです。

 

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家族それぞれの夏の守り方

同じ家に住んでいても、危ない場面は人によってまったく違います。

最後に、我が家で実際に分けて考えている守り方を書いておきますね。

 

赤ちゃんと小さい子は、とにかくクルマとベビーカー。

JAFの実験のとおり、炎天下の車内は30分で45度に達します。

「ちょっとだけだから」で降ろさなかった数分が、取り返しのつかない数分になってしまうのです。

ベビーカーは地面に近いぶん、大人が感じている温度より数度高いところを進んでいるという点も忘れたくないところ。

日よけと保冷シート、そして水分は、大人より頻繁に。

 

部活の子で怖いのは、練習中よりむしろ帰り道です。

運動をやめたあとも体温はしばらく上がり続けますし、一人で自転車に乗って帰る途中は、誰にも気づいてもらえません。

冷却タオルと塩分タブレットをバッグに入れて、途中でコンビニに寄ってもいいと伝えておく

暑さ指数が31を超えた日は、休ませる判断をこちらから出してあげてほしいと思います。

「みんな出てるから」で行かせた日に何かが起きたら、後悔するのは親のほうですから。

 

屋外で働くご主人には、冷却ベストを。

会社が用意してくれるのを待っていると、たいてい夏が終わります。

家族が渡すというのが、いちばん早いんですよね。

 

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そして、離れて暮らす親御さん。

ここがいちばん、手が届かなくて厄介です。

この光景、うちの実家とまるで同じでした。

電話でエアコンの話を振れば、必ず「つけとるよ」と返ってきます。

でも実際に行ってみると、扇風機が首を振っているだけ、ということが何度あったか。

本人に悪気はなく、暑さを感じる力そのものが落ちているだけなんです。

だから言葉で確認しても、あまり意味がありません。

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そこで私が実家に送ったのが、さっきの暑さ指数つきの温湿度計でした。

数字が出て、危険域でアラームが鳴れば、感覚が鈍っていても気づけます。

親孝行という気持ちよりも、正直に言えば自分が安心して眠るために買ったものでしかありません。

数千円で、実家に自分の目をひとつ置いておける。

そう考えたら、迷う理由のほうが見つからないのではないでしょうか。

 

冷却タオルもハンディファンも、家族の誰かが使わなくなっても捨てることになりません。

子どもが大きくなれば下の子へ回りますし、「うちの子が使ってたやつ、良かったら」で知り合いのお子さんへ譲ることもできます。

ベビーカーや抱っこ紐と同じで、夏の道具もぐるぐる回していけばいいんですよね。

だから、一人分だけ買って終わりにしないでほしいのです。

倒れるのは、いちばん我慢強い人からですから。

 

最後にひとつ。

めまい、吐き気、頭痛、こむら返り、そして受け答えがどこかおかしい。

こうした症状が出たら、まず涼しい場所へ移して、首と脇の下と脚のつけ根を冷やしてください。

家に帰って調子が悪いなと感じた時は、まずはエアコンの効いた部屋までいってから、麦茶などの水分補給をすること。

順番をひとつ入れ替えるだけですが、それだけで熱中症による悪化が防げるかもしれませんよ。

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参考にした情報

この記事は、次の公的機関・報道の情報をもとに書いています。

暑さ指数や熱中症警戒アラートは毎日更新されるので、迷ったときは環境省のサイトで今日の数字を見てみてください。

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